寝屋川市死体遺棄事件について精神保健福祉士からのコメント
いまさらながら、寝屋川市における女性の死体遺棄事件について書いてみようと思います。
なかなか筆を執る気にはなれなかったこの事件ですが、放置しておくわけにもいかないのでいろいろと思うことなどを書いていきたいと思います。
事実関係については、下記のリンクさきにあるみわよしこ氏が報道内容を丁寧にまとめてあるのでまずはそちらを一読していただきたいと思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/miwayoshiko/20180107-00080215/
さて、この事件ですが、いまさらながら報道からわかる事実をまとめてみると
1精神障碍者と思われる女性が長年自宅の1室に監禁され、衰弱死した
2食事が十分に与えられず、衛生的にも不潔な状態であった
3監視カメラなどを使って、内外からのアクセスを遮断していた
410代のころからこの女性はこういった生活を続けていた
5障害年金を受給していた?
6自治体などは把握できていなかった
7死亡した女性には妹がいて、妹が親に自首をすすめた
8統合失調症と診断されていた?(断定できないが可能性が高い)
このようになると思われます。
この事件に対して私たち精神保健に携わる人間としては何ともやりきれない気持ちになるのですが、みんななかなかこれに関してコメントが出てこないわけです。一般的にみればれっきとした障碍者虐待の事例で特殊にな事件だと感じると思うのですが、私たちから見るとそうでもないのです。
当たり前のように似た事例が転がっているからピンとこない関係者が多いのかもしれません。
過度で厳重な監禁という事実を除けば、実は結構こういった事例があるのです。守秘義務に触れない範囲で書いていくと、
「精神疾患に理解のある家族の死をきっかけに治療中断して、そのまま家で閉じこもっている」
「年に1~2回しか外来に来ないで家族が薬を取りに来ているが、実態がわからない」
こういったケースがどこの病院でも主治医ごとに数件あるものなんです。なぜそういった事例がそのまま放置されているかについて、各関係機関の立場から解説していきます。
1行政機関、自治体
本来ならばこういったところが真っ先に解決に向かうべきなのかもしれませんが、彼らの基本は「申請主義」相談や通報があれば対応しますが、それらがなければなかなか動けません。障碍者に対しての見守りや定期的な訪問などが規定にあれば別ですが、そうではないためどうしても動きが鈍くなります。また、現状ではどこの自治体も把握しているケースの対応で手いっぱいで、それ以外までなかなか手が回らないでしょう。
そして今回のケースですが、どうも年金は受給していても手帳や福祉サービスは利用していなかったようなので寝屋川市の障害福祉を管轄している部署はこの事例を把握していなかった可能性が極めて高いと思われます。年金を受給しているんだから市役所内で把握できているのでは?とも考えられますが、ふつうは年金の受給者リストが庁舎内で共有はされません。そのため、障害福祉の担当部署が支援対象として認識することは困難だったと思われます。年金をもらっていて手帳をもらってない人、またはその逆の人はかなりいるので、このようなことは珍しくありません。また、このケースでは20歳前に精神疾患を発症したと推測されるので、障害基礎年金受給中であり、寝屋川市の国民年金担当課が把握していた可能性が極めて高いのでこのような書き方をしていますが、これが職歴があったりすると全く別の話になってくるので注意が必要です。
これを解決するためには「障害年金の受給者、障碍者手帳の取得者への訪問の義務付け」などが一つのアイデアとして出てくると考えられますが、それを達成するためのマンパワーは今の自治体にはないでしょう。現状の市町村の担当者の事務量はかなりの量となるのでそれの軽減や人員配置のための予算化を検討する必要があります。ただ、池田小ややまゆり園の時にはなぜそこまでと感じるほど機敏に法改正などに動いていた厚労省にその時のような危機感や雰囲気は感じられません。あれらの事件が医療観察法や現在手続き中の精神保健福祉法の改正に向けた動きにつながったこととは対照的です。ライシャワー事件のころから、この国は「精神障碍者が殺人をすること」には敏感でも「精神障碍者の人権」には無頓着であり、変わらないのかもしれません。
2病院、医療機関
次に何かアクションを起こすことができたのは医療機関などであったと思われます。なにせ精神疾患との診断を受けていて障害年金を受給しているということは最低2回以上医師のもとを受診しているからです。(精神疾患での障害年金の受給は初診および初診から1.5年経過時点での診断書が必要なのでそこから推測しています)また、年金を継続して受給するためには数年ごとに診断書を提出する必要がある(人により年数は異なる)ため、20歳から亡くなるまでの間に複数回診断書作成のために受診しているはずだと考えられます。
なので、診察時に医師が異変を感じた場合、虐待として通報することもできた可能性があります。しかし、これに関しては世の中にはひどい医者もいるのでうまくそういった医者のもとに受診していたのかもしれません。これは事実がわからないため何とも言えません。何より診断名がわからないのでなんとも言えないところがあります。知的障害の場合、診断書作成のためだけに数年に1度ずつしか受診しないケースもあるからです。しかし自分の勤務先では統合失調症の場合年金の診断書を作成するためはきちんと定期受診するように求めます。その期間の経過がわからないと診断書も書けないので、標準的な医療機関はそのようにすると考えられます。その際に衰弱や暴力の痕跡があった場合は行政に通報などをします。自分も似たようなケースで自治体の担当者と協働して対応したことが何件かあります。けれどもそういうことをしない悪い医者もいるのでそこはもう少し事実関係がはっきりしないとコメントはできないように思えます。
もし両親がこれらの事情に精通していて悪意を持って監視の目をすり抜けようとしていた場合、それに対応することは現状の医療機関の力では困難な可能性があります。
3現状の精神障碍者の処遇
数年に1度、いまだにこういった自宅に半ば監禁されていたり病気になってから数年放置されているような精神病患者が入院してくることがあります。ここまで悪意を持って監禁されているケースはまれですが、家族に知識がなかったり、宗教に影響されていたり、経済的な理由だったりで似たような状況に置かれている方は知られていないだけでたくさんいます。今回の事件はちょっと特殊ですが、特別な事例ではないのです。
というわけで、思いつくままに書いてみました。もう少し詳しいことがわかれば違ったコメントも書けたのですが、これが限界でした。ただ、今回のケースは特別なこのではないこと、それだけは皆さんにも知っておいてほしいと考えます。
以上、ざっと思いつくままに書いてみました。正しいことや間違っていることが含まれているかもしれませんが、現状でわかっている範囲で書けることは自分にはここまでです。これから裁判などが始まり、事実関係が明らかになってくればまたコメントすることもできるかもしれません。